テレビCM・ラジオCMの納品で失敗しない:ARIB TR-B32、ラウドネス、サンプリングレート完全実務ガイド

テレビCM・ラジオCMは「同じナレーション」では納品できない
テレビCMとラジオCMは、どちらも短尺広告でありながら、求められる音声仕様はかなり違います。現場では「同じ原稿を読んだから同じ音で出せる」と考えると、かなり高い確率で修正になります。私はナレーター・ディレクターとして、読む技術以上に「媒体に合わせて音を設計すること」が重要だと常に感じています。
特にテレビCMでは、放送運用に乗せるためのラウドネス管理が厳格です。日本の放送ではARIB TR-B32に基づき、一般に運用目安として-24 LKFS ±1 dBが重要な基準になります。これは単純なピーク値ではなく、番組やCM全体の知覚音量を揃えるための考え方です。一方で、ラジオCMは局や系列、搬入ルールによって差があり、ピーク管理中心で運用されるケースもまだあります。つまり、テレビは「ラウドネス起点」、ラジオは「実効音量と明瞭度起点」で考えると整理しやすいです。
ARIB TR-B32をナレーターがどう理解すべきか
ARIB TR-B32は本来、放送音声全体のラウドネス運用に関する技術資料ですが、ナレーターにも無関係ではありません。なぜなら、収録段階で声のダイナミクスを暴れさせると、最終整音で強いコンプレッションが必要になり、結果として言葉の品位が落ちるからです。
実務上は、ナレーション単体の録り音をピーク -12 dBFS前後、平均的な発話レベルを十分なS/Nで確保しておくと扱いやすくなります。納品前のMAやミックスでは、Youlean Loudness Meter、NUGEN VisLM、iZotope Insight 2などで統合ラウドネスを確認し、テレビCM全体で-24 LKFS付近に着地させるのが基本です。True Peakは運用上-1.0 dBTP以下、より安全を見るなら-2.0 dBTP以下で仕上げると事故が減ります。
ナレーター視点で大切なのは、ラウドネス基準があるからこそ「大声で押し切る」読みは得策ではない、という点です。音量は後で上げられても、潰れた子音や不自然な圧は戻せません。テレビCMほど、抑制された芯のある声が強いのです。
サンプリングレート・ビット深度は“高ければ正義”ではない
納品仕様でよく混乱するのが、サンプリングレートとビット深度です。テレビCMでは現在も48kHz / 24bit WAV指定が最も実務的です。映像系の基準と親和性が高く、MAスタジオでも扱いやすいからです。対してラジオCMでは、局によって48kHz / 24bitもあれば、44.1kHz / 16bit WAV指定が残っている場合もあります。ここで大事なのは、「自分の収録を最終納品仕様に無理やり合わせて劣化させない」ことです。
おすすめは、収録を48kHz / 24bitまたは96kHz / 24bitで行い、編集・整音後に指定フォーマットへ書き出す運用です。ただし、96kHz収録は環境ノイズやマイクの高域特性まで過敏に拾うため、宅録では48kHz / 24bitの方が安定することも多いです。ビット深度は、収録・編集では24bitが有利です。16bit納品が必要な場合は、最後の書き出しでディザリングを入れるのが基本です。DAWならPro Tools、Nuendo、Adobe Audition、Reaperのいずれでも対応可能です。
テレビCMとラジオCMで変えるべき読みと整音
仕様差は、機材設定だけの話ではありません。テレビCMは映像、SE、BGMと共存するため、ナレーションは中域の抜けと子音の視認性が命です。EQで2kHz〜4kHzをわずかに整え、150Hz以下を軽くハイパスするだけで、言葉の通りが改善します。コンプレッサーは比率2:1〜3:1程度、GRは2〜4dBを目安にすると自然です。
ラジオCMは映像がないぶん、声が商品体験そのものになります。したがって、情報の即達性に加えて、耳障りの良さが重要です。過度な高域強調はAM系再生や小型スピーカーで刺さることがあります。私はラジオ案件では、テレビより少し近接感を出しつつ、歯擦音の処理を丁寧に行います。de-esserは6kHz〜8kHz付近を中心に、かかりすぎない設定が安全です。
納品フォーマットで失敗しないチェックリスト
最後に、現場で本当に効く確認項目をまとめます。
1. 媒体確認:テレビかラジオか、Web併用か。
2. ラウドネス基準確認:テレビはARIB TR-B32準拠運用か。
3. ファイル形式確認:WAV、モノラル/ステレオ、インターリーブ指定。
4. サンプリングレート確認:48kHzか44.1kHzか。
5. ビット深度確認:24bitか16bitか。
6. 尺確認:15秒、20秒、30秒で語尾処理まで収める。
7. 頭尾の無音:頭0.2秒、尾0.5秒など指定有無。
8. ファイル名規則:案件名、バージョン、テイク番号。
9. ラウドネスメーター確認:LKFS、True Peak、短時間ラウドネス。
10. 試聴環境確認:ヘッドホンだけでなく、小型モニターでも確認。
ナレーションの仕事は、良い声を録ることがゴールではありません。放送局、代理店、MA、クライアントの運用にきちんと接続されて初めて、プロの納品になります。テレビCM・ラジオCMの仕様差を理解しているナレーターは、それだけで信頼されます。読む前に仕様を読む。この習慣が、修正の少ない仕事を作ります。

小林 将大 Masahiro Kobayashi
Professional Narrator
企業VP、CM、ドキュメンタリーなど年間300本以上のナレーションを担当。
高品質な宅録環境を完備し、スピーディかつ最高水準の音声データを提供します。
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